2002 富士山 大滑降  (富士山、御岳山 山スキー)

期  間 平成14年4月30日夜〜5月4日朝
メンバー 野人(L)、D氏
記  録 野人

 今年もやって来た。自分にとって、1年間の総決算 ゴールデンウィーク 山スキー
私でも、それなりに色々あって、山には行き難くなってきた。しかし、「山スキー」だけは犠牲にできない。その為に他の事は我慢している。その為に夏眠しているのである。
山スキーは雪山登山とスキー滑降が複合した、この上なく贅沢な最高の山行形態である。山スキーだけは、妥協できない。それほど、素晴らしいのだ。
 当初予定していた、立山山スキー合宿は、ボツにした。なかなか山スキー人口は増えない。入門者はいない。それなら、去年の「針の木大滑降」以上の事をしないとつまらない。「黒部源流、三俣蓮華カール大滑降」「剱岳、長次郎雪渓大滑降」「槍ヶ岳、槍沢大・・・いくらでもしたいことはある。しかし、アプローチが長過ぎ今回は難しい。(その時は10連休になる予定ではなかった)それと今年は最高のパートナーD氏が行ける事になった。彼の希望も聞きながら、行先を考えていて、ふと思いついた。それは、我等にとって未踏峰 富士山だった。
直前になって、10連休と判明した。前半、D氏は奥さんと北八、私は家族サービス。天気予報によると、5月2日が最高らしい。D氏は帰った次の日にもう出発だが、OKと言ってくれた。それで天気予報と相談して、日程を早めた。念のため予備日を2日取り、上手くいけば、御岳にも行く事にする。

富士山登頂大滑降
 4月30日、22時。D氏とテラノで倉敷を出発する。マニアックな会話を続けながら、車を走らせる。山の会に入会する前は、よく二人で出かけていたが、最近では4年前の立山以来だ。関が原から雨になる。名古屋を過ぎ、東名に入り、眠いのでパーキングで寝る。夜明け前に起き出発。とりあえず雨は止んでいる。静岡県に入り、富士山が姿を現して見とれて?いたら、富士ICを行き過ぎ、沼津ICで下りる。時間は充分ある、御殿場経由でドライブだ。御殿場で買出しをして、富士スカイラインに入る。標高が上がるに連れて、ガスが出てくる。昼前に新5合目(2400m)到着。雲の中で何も見えない。再び雨になる。下界で買った弁当を食べ、レストハウスに物色に行ったり、ウダウダ話をして過ごす。高度順応の為に早めに登山口に行ったのである。天気が悪いのに、結構観光客がお出でになる。外国の方が特に多い。明日に備え、酒も飲まず、20時就寝。

 5月2日、4時半起床。結露した窓ガラスを拭き、外を見ると、雨も止み、ガスも消え頂上が見える。下界は雲海だ。予定通り、ばっちりだ。

 5時45分、新5合目出発。軽登山靴を履き、スキーと兼用靴は背負って登る。下部の登山道は雪が無いのはわかっていた。小さい雪渓を何度か横切る。気温3℃、勿論、雪面は硬く、ソールが軟らかい軽登山靴では恐ろしい。雪が少ないので、この辺りを見た限りではスキー滑降ができるのかと、不安になるところだが、4月27日に滑った人の報告を山スキーメーリングリストで受けているので、上部の状態はわかっている。気持ちが楽だ。インターネットは本当に便利である。下山後の温泉も検索した。

 6合目の小屋を過ぎ、大きな雪渓が現れてきた。並みのスキー場のリフト一本はあるだろう。雪渓の左の尾根上の火山砂礫の登山道を歩くのだが、歩き難く、気を抜くと足が滑る。だんだんと、雪の割合が増えてくる。


雪世界へ 9時36分
 8合目の小屋の前で休憩する。ここを過ぎると、雪世界だ。兼用靴に履き替え、ピッケルを持ち直登する。9合の小屋を過ぎ、斜度は増して30度はあるだろう。しかし、雪面はあまり硬くない。アイゼンで登っている登山者もいるが、キックステップでも不安は感じない。頂上にはなかなか近付かない。空気が薄い影響もあるだろう。足取りは非常に重たい。7合で抜かれ際、話を交わした、青年がもう下りてきた。自分達はスキーを背負い、荷が重いとはいえ、彼は速すぎる。元気がいいことだ。9合5尺を過ぎると、露出した岩や石が増えてきた。とても苦しい。休み休み一歩一歩標高を上げていく。
 
 11時、頂上の一角、浅間神社到着。内輪山、お鉢に着いた。建物の脇を抜けると、初めての景色に目を奪われた。サミットフォール(噴火口)は強烈過ぎた。剣ヶ峰からはツララが帯状に垂れ下がり、対岸の岩壁には氷爆までも形成されていた。標高3700mは想像を超えた世界だった。富士山のシンボルだった測候所のレーダードームは撤去され、台座だけが残っている。そこを頂点に、内輪がぐるりと見渡せる。建物の脇で、行動食を摂り休憩して、スキーをデポして、剣ヶ峰に向かう。剣ヶ峰へは急斜面になっており、若干雪も硬いので、アイゼンを装着する。単独の外国人の登山者とすれ違い、挨拶を交わす。9合で抜いていったスキーヤ−がジャンプターンで降りてきた。少し話す。滑れない斜面でもないのだが、距離がしれていたのと、お鉢へは40度の斜面(カシミールで計測)なので滑落の危険性もあったので、私達はそこまでしなかった。彼は登りで、全然休まず歩いていた。超人だ。

 11時40分。日本最高所「剣ヶ峰」到達。測候所の脇に「日本最高峰富士山剣ヶ峰」と書いた石碑があるだけで、あまりに質素で、驚いた。測候所の職員の方が表に出てこられたので、挨拶をする。新田次郎の小説やプロジェクトXでも取り上げられた、「富士山測候所」色んな思いが込み上げてくる。快晴無風、気温は13℃まで上がっている。富士山初登頂は達成され、次の目的に向かう。いよいよ大滑降だ。スキーデポ地点まで下り、スキーをザックに固定して、歩いて岩場を慎重に下る。9合7尺まで下ると、目の前は遮る物は何も無い。

 12時30分、ドロップイン。30度を超えている、気合のジャンプターンで一心不乱に滑り下りる。雪質は最高のコンデションだ。恐怖は全く感じない。スキーを始めて11年、いつかは富士山。夢にまで見た、大滑降だ。酔い痺れている訳にもいかない。写真撮影をしないと。せっかくデジカメを買ったんだ。スキー滑降のモデルとして最高のD氏の華麗な滑りを撮りまくる。しかし、ちょこまか滑って、写真撮影も馬鹿らしい。もったいない。一気に雪渓の切れ目まで目指して滑る。アー、苦しい。息が続かない。けれども、辛抱して滑り込む。
後で、この斜面をカシミール3Dで算出すると、前半の最大斜度34.8度で後半は25度前後だった。

 12時50分、8合目到着。一旦、雪渓が切れる。
スキーを背負い、小屋の下の岩場を歩いて、次の雪渓に取り付く。D氏の様子がおかしい。異常に遅れる。「大丈夫か」と尋ねると、「頭が痛くて、吐き気がする。高度障害だ」と言う。登りは、ゆっくり無理をせず登ったが、8合まで一気にフルパワーで滑ったので、酸素不足になったのだ。まだ、歩けるので、頑張って貰うしかない。岩場を下降して、繋ぎの100m程の雪渓を滑る。ブーツの滑降モードの切り替えを忘れ、歩きのままになっていて、上手く滑れず、こける。山ボーダーが二人登って来た。格好悪いので「切り替えを忘れてた」と照れ隠しに叫ぶ。彼らは、上の様子を聞いてきたので、少し話す。岩場をまた少し歩いて、7合5尺からの雪渓の上部に着いた。霞んで海までは見えないが、宝永火口と下界の眺めが素晴らしい。15分休んで私は、ドロップイン。D氏はもう少し休む。上部はフラットな適度な斜度で、大回りでかっ飛ばす。板が暴れる。カービングスキーが欲しい。3分の2くらい滑って、D氏を待つ。彼も滑り始めた。さすが、滑りは華麗だ。少し滑っては休むのだが、大丈夫そうだ。何枚か写真を写し、自分は末端まで滑る。下部は、洗濯板の様に荒れて、丸でモーグルバーンだった。ここで滑降は終わり。板を背負って、ガレ場を下る。

 新6合、宝永山荘の前で少し休む。ここまでは観光客が上がって来ている。愛想のいいアベックと会話をする。どうやら彼らも山とスキーをするらしい。もう少しで駐車場だ。歩き始めると、急に賑やかになり、自分達は浮いた存在になっていく。
 14時55分、駐車場着。本当に素晴らしい、大滑降だった。
 
 とりあえず、温泉だ。インターネットで見つけた、富士宮市の焼却場の隣の天母の湯に行く。焼却場の熱を利用した、新しい綺麗な施設だった。
サミットフォール 10時56分
日本最高所「剣ヶ峰」 10時56分
D氏の滑り 12時34分

9合目の大斜面 12時38分
7合5尺〜6合5尺の雪渓 8時46分  7合5尺〜6合5尺の雪渓 13時45分 下山後 富士宮から 15時49分

御岳山スキー 
 実は、御岳山は独立峰としては、日本第2位の山なのである。私は御岳は、一昨年、初登頂、スキー滑降している。D氏は初めてである。一昨年は、御岳スキー場(田の原)からのコースだったので、今回は東側の御岳ロープウェースキー場からにした。

 温泉に入りさっぱりして、目指すは御岳だ。地走りで行こうかとも思ったが、遠過ぎる。甲府昭和で高速に乗る。諏訪湖SAで食事をして、塩尻ICで下りる。国道19号、県道を走り、御岳ロープウェースキー場着。遅くなった、さっさと寝る。

 5月3日、朝起きると天気は良く、御岳山の全容を望むことができた。ゴンドラの始発は8時45分と遅い、ゆっくり準備をする。もしかしたら、ちょっと早めに乗せてもらえるかもと思い、ゴンドラ乗り場に行ったが、時間通りだった。(やはり八方とは違っていた)待ちくたびれた、やっと乗せてもらう。スキー場下部は雪が無く、ゴンドラで上がって、その3分の一だけ滑れる状態だった。

 9時、シール登高で、リフト山頂駅出発。すぐに樹林に突入する。しばらく進むと急坂が有り、階段登行で乗り切る。その後はシールのスリップをだましだまし、ジグザグに登って行く。徐々に視界が開け、斜度も落ち着いて、直登できる。標高は2400m付近で森林限界だ。御岳上部が見える。右手には乗鞍岳、その向こうには槍穂高が見える。前方に金剛堂が見えている。頑張ろう。あそこはもう8合目だ。

 10時30分、金剛堂到着。建物の裏手に周ると、おびただしい数の仏像にびっくりする。種類も色々ある。一瞬、坊さんが座っているのかと、ドキッとする程リアルな仏像もあった。ここで、15分休憩をして行動食も取る。ここから稜線に向けて、正念場だ。尾根上は地肌が出ているので、その右の傾斜面をシールで登って行く。ここの沢底を、沢山の人が登って来ている。スキー場から、登山道以外のルートで登って来たのだろう。滑降時はあちらに滑った方が、快適そうだ。積雪期は自由にルートが選べる。傾斜は20度を超えてきて、直登は苦しく、ジグザグに登る。9合目覚明堂直下は30度に達し困難極め、左の尾根上に上がり、スキーを背負って歩く。

 12時、覚明堂横を通過。この尾根の左の沢は、至る所で雪面に亀裂が入り皺になり、全層雪崩は時間の問題だ。疲れがピークに達し、中々進まない。頑張ろう。単独の山スキーヤーに追い付き、越して行く。相変わらず、至るところに仏像がある。右下に、ほぼ雪で埋まった二の池が見えて来た。ガレ場を歩き、適当な場所に、スキーをデポする。ここから、岩場を攀じ登る。兼用靴では、ちょと辛い。

 13時、剣ヶ峰(3067m)到着。後続のパートナーに、わざとらしいムーブを決めて貰い、頂上到達の写真を写す。彼は御岳初登頂だ。「結構いい山だ」と言っている。しばらく展望を楽しむ。やはり、一昨年より雪は少ない。30分程頂上で過ごし、スキーデポ地点まで下り。行動食、滑降準備をする。

 13時55分、滑降開始。ギャラリーの目を気にしながら、狭い尾根上をショートターンで少し滑る。石が多くなって背負いに移り、覚明堂の下まで歩く。再びスキーを履く。斜度は30度位だ。岩とハイ松を横滑りを交えて、パスする。

いよいよ待望の大斜面だ。パートナーは動画撮影準備OK。
気合を入れてドロップイン(動画)。無我夢中でフォールラインめがけて滑って行く。標高差300m程を一気に滑る。最高以外言い表せない。後で再生してみると、「オリャ‐」と無意識でお叫びを上げていたのには、笑ってしまった。しばらく沢を滑り、下山ルートは、朝、他のパーティーが登って来ていた沢から北側の尾根を下る。振り返ると、今滑ったシュプールが、太陽光を受け、光り輝き浮き上がっている。本当に素晴らしい。大満足の斜面だった。ハイライトを終え、樹林に入っていく。。苦労して木々を避けながら滑る。雪質も最悪のベタ雪になり、足がとても疲れる。

(動画はリアルプレーヤーで再生できます)

 14時55分、ゲレンデトップ到着。登りに9合五尺で出会った、単独スキーヤーとは、その後、抜きつ抜かれづで、何度か会話をしたが、ここに来て記念にと、写真撮影をする。彼は神戸だと行っていた。近いので、住所等を聞いておけばよかったと後悔する。15分程休んで、ゲレンデを滑る。雪は重たく、回すのに疲れる。パートナー曰く「カービングスキーだと、こんな雪でも楽に滑れる」と。リフト2本分を滑ると、コース閉鎖。スキーを背負い、ガレ場に突っ込む。30度は有ろうか、という急斜面だ。雪も無いコースをそのまま下ってる馬鹿は、他にはいない。目当ては、少し残っていた雪渓だ。ガーン間違えて隣のコースを下ってしまった。まあいい。下りのゴンドラ代浮かした。その分、美味いものでも食べよう。しばらく下ると、ラッキーにも、こちらも50メートル程、雪は残っていた。今シーズン最後は、会心の滑りで終えたい。しかし、思った以上に体は終了していた。レストハウスが見えてきて、もう一頑張りだ。草っ原のゲレンデを歩く。
15時55分、駐車場着。「あ〜、よく遊んだ」くたびれた。

帰りは、以前行った、木曽温泉に寄ったが、時間が悪く、外来入浴不可だった。地図で他を探して,「フォレスパ木曽」に行く。
風呂に入り、晩御飯も食べ、中津川から、高速に載って帰る。そのまま帰るのも眠いしで、帰ってから寝る事になり同じだ。パーキングで本寝する。

5月4日、早起きをして、一気に帰る。朝7時には、倉敷に着いた。デジカメ写真の取り込みなどをして、D氏と別れる。彼と一緒に行けて、今回もスキー技術、パソコン、色々と吸収する事ができた。山の会も、なかなか山スキー人口が増えないが、最高のパートナーである彼がいることは、とても幸せな事だ。

 今回やっと日本最高峰「富士山」に登頂できた。混雑する夏山はずっと避けていたからだ。天候にも恵まれ、アイスバーンの恐ろしさを体験する事も無く、無事に登頂して滑降できて、とても幸せだった。今度は、山梨県側の吉田大沢を滑りたい。もっとスキー技術を高めなければいけないな。課題は沢山ある。

コースタイム 山域概念図
5月2日(木)「富士山」
 5:45 新5合目登山口
 6:00 新6合目雲海荘
 7:00 7合目
 9:00 8合目
10:20 9合目 
11:00 浅間神社 着
11:20        発
11:40 剣ヶ峰 着
12:05      発
12:20 浅間神社
12:30 9合7尺 ドロップイン
12:50 8合目 着
13:00      発
13:15 7合5尺 下の雪渓トップ
14:00 6合5尺 下の雪渓ボトム
14:25 新6合目雲海荘 着
14:45            発
14:55 新5合目
5月3日(金)「木曽御岳山」
 8:45 ゴンドラ山麓駅
 9:00 スキー場トップ
10:10 標高2400m 森林限界
10:30 8合目 金剛堂到 着
10:45             発
12:00 9合目 覚明堂
13:00 剣ヶ峰 
13:30 スキーデポ地点 着
13:55            発
14:15 9合目 覚明堂 
14:30 ハイライト終了地点
14:00 樹林帯に突入
14:55 スキー場トップ 着
15:10           発
15:55 駐車場 着

マテリアル 装備
野人:ダイナスター アルティプルム180cm + フリッチ ディアミール チタナルU、ノルディカ TR12

D氏:ダイナスター アルティプルム180cm + ジルブレッタ SL 、ノルディカ TR9

ピッケル、12本爪アイゼン、ストック、シール スキーアイゼン(御岳のみ)、トランシーバー、ツェルト・・・

注意
積雪期の富士山は、それなりの経験と装備が絶対必要です。今回は天候にも恵まれて雪も緩み、安全に滑降出来ましたが、この時期はアイスバーンも珍しくありません。滑落で命を落とした人も沢山います。ゲレンデスキーの延長で、安易に行かないで下さい。何かあった場合、多大な迷惑をかけます。

法令等(法及び条例)の根拠はなく、関係機関による呼びかけに過ぎないのですが、新5合登山口には、「スキー、スノーボード 滑走禁止」の立て看板が立っています。そのことも承知していて下さい。
この立て看板は現地に行くまで、全く知りませんでした。
勿論事前に、静岡県警に登山計画書は提出してます。    


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