槍ヶ岳  槍沢 飛騨沢 滑降

【山域】 北アルプス
【日時】 2003年 4月27日(日)、28日(月)
【コース】 新穂高温泉〜槍平〜飛騨乗越 槍ヶ岳(3180m)登頂 槍岳山荘〜殺生ヒュッテ〜グリーンバンド (往復)
【メンバー】 野人(単独)
【記録】 野人
【天気】 晴れ


穂高平小屋

カモシカに遭遇
 山行の5日前、突然28日が休みなり、GW前半が4連休になった。週間天気予報も良さそうだ。 これは行くしかない!!
 新穂高温泉から槍に登頂、槍沢上部と飛騨沢を滑ってきました。最初は前夜発夜走りで双六周辺を考えていましたが、こちらは無雪期にも行った事も無く、しかも単独、悩んでいました。調べてみると、双六小屋の営業は27日からで、日程が合わない。きっぱり諦める事ができた。それで、槍に決定!今回は宿泊装備無しで軽量化して滑りたかった。槍ヶ岳へのこのコースは、12年前の夏に登った初めての北アルプスだ。その時の記憶は薄れ詳細は忘れてしまったが、ただ沢を詰めるだけの単調なコース。天気にも恵まれそうで、単独でも不安は少ない。

 26日、朝7時に倉敷を出発する。国道2号を備前まで走り高速に上がり、東海北陸道の郡上八幡で高速を下りる。新穂高温泉に夕方到着して温泉に入り、ロックシェッド下の登山者無料駐車場で車中泊。早めに就寝した。

 27日、朝4時起床。

 4時45分、この辺りは雪は全く無い。スキーをザックに固定して、駐車場を出発。ここから槍ヶ岳頂上(3180m)までの標高差は2000mを超える、気合が入る。10分程歩いてロープウェー駅サイドを過ぎる。林道入口のゲートの所で出発の準備をしていた青年とそのお母さんに出会う。ここまで車で送って貰ったようだ。暫くして彼に抜かれたが、マイペースで歩く。

 6時、穂高平小屋に到着。ザックを下ろし小屋の前のベンチで少し休む。ここから雪は急に増えていく。暫く歩くとカモシカに遭遇。近付いても全然身動きせず、ずっとニラメッコ状態。通り過ぎて振り返ったが、こちらをじっと見ていた。
林道に雪が繋がってきたので、シール登高に移行する。やっとお荷物が道具となる。

 7時、白出沢出合着。沢は涸れていて難なく渡れたが、いきなり対岸は藪の登りで雪も切れていた。白出沢を手に持って渡ったスキーを、ザックに固定してクリアして、再びシール登高に移行する。つぼ足の先行者の踏み後は赤紐を忠実に辿っていた。この夏道は全体にトラバース気味の傾斜面、しかも汚れた雪面、アップダウンも結構有り、とても難儀する。

 8時45分、滝谷出合着。小屋のそばにテントが張って有り、人もいた。大山の駒鳥小屋のような感じを受ける小屋であった・・。滝谷は轟々と流れていた。スキーを背負って雪壁を川原に下りて、徒渉地点を定める。飛び石伝いに何とか渡れたが、兼用靴ではかなり不安定でジャボンと落ちてもおかしく無かった。直にもうひとつ沢を渡るがこちらは涸れていた。ここから滝谷の岩峰群の眺めは圧巻だった。

 9時50分、槍平小屋着。小屋は半分雪に埋まっていた。誰も居らず、テントも無かった。やっと標高2000m、半分通過。暫く進むと、飛騨沢は完全に雪で埋まり段々と山スキーらしくなっていく。先行していた、林道で抜かれた青年に追い付く。彼はゲレンデ板を背負い、スノーシューで登っていた。3ヶ月間テストで運動してなかってバテたと言っていたが、シール登高の威力の差が大きいだろう。私もバテているのだから・・。谷が右側に曲がると、素晴らしい上部の大斜面が見えて来る。槍岳山荘も遥かに見える。ここからが長かった。最高過ぎる天気で雪面からの照り返しが激しく、とても熱い。しかし、とても美しい景色だ。前日までの雨でトレースは消え、自分がトレースを付けていく。目の前は自然そのままの状態だ。乗越し手前で斜度がきつくなり、斜登高も困難になる。天気がいいので雪が緩み、トラバース状態で角付けをすると雪が崩れてしまう。仕方無く板を背負いつぼ足で登る。気力体力限界で一番辛いところだった。

 13時50分、飛騨乗越着。稜線付近は雪は付いてなくガレ場を歩いて夏道に出る。反対側の槍沢は大勢登って来ている。飛騨沢では結局、一人に出会っただけだった。

 14時10分、槍岳山荘着。宿泊の手続きをして、空荷で穂先の往復をする。夏山は大混雑だろうが、人はまばらで、頂上ではゆっくりと大展望を楽しむ事ができた。やはり、黒部源流の山々が気になる。来年は滑りたい。穂高連峰は、奥穂だけは雲がかかり、かなり粘ったが望む事が出来なかった。下りは兼用靴なので慎重に下った。

 500人泊まれる小屋に、宿泊客は50人で、とても快適だった。部屋は昨年出来たばかりの新館で、同室は気さくな紳士的なおじさんと二人だけでラッキーだった。彼は諏訪湖の湖畔に住んでいて、18歳から現在54歳までずっと登っているというベテランだった。色んな話が出来て良かった。槍岳山荘は、夏山最盛期では考えられない、快適過ぎる居心地だった。たた、食事中にとんでもない非常識おやじがいて、それだけが汚点だった。

 28日、今日は念願の槍沢と飛騨沢の連続滑降だ。夜は星が出ていたが、ガスに覆われ御来光は駄目だった。朝食は6時からで食事も済んで、ガスが晴れるのをずっと待っていた。7時を過ぎ、ようやくガスが晴れてきた。しかし、雪は硬い。登山者はアイゼンで慎重に下っている。雪が緩むまで待っていれば良いのだが、槍沢を滑り登り返して飛騨沢滑降なので、先の事を考えると落ち着かなく、アイスバーンという程でもなさそうなので、滑る事にする。

 7時半、槍沢滑降開始。雪質を確かめながら、斜滑降で滑り出す。そこそこカリカリ、微妙な状態。しかし、殺生ヒュッテ上で斜度が緩むので、恐怖感は感じない。斜滑降でフォールラインに登山者がいない位置まで移動する。憧れの槍沢、ついフォールラインに向ってターン。板が暴れ、抑え切れず、3ターン程でバランスを崩してして転んでしまった。片方の板が外れ2回転、滑落だ。何とか体制を整え、残った片方の板で制動を効かせて停止。自分自身は滑落停止できたのは幸いだったが、板はズルズルと殺生ヒュッテ上まで落ちていき、登山者の顰蹙をかってしまった。 すぐさま、片方の板とストックを背負いピッケルを持って下り、板を回収する。あまりに無念で、転倒地点まで登り、もう一度滑る。今度は慎重に滑る。キックターンをやりかけたが、時折、突風が吹いて片足だと倒れそうで躊躇する。落ち着いて思い切ってジャンプでプロペラターンをして方向転換。徐々に斜度が緩み、フォールラインに向って滑る。殺生ヒュッテを過ぎてグリーンバンドまで滑った。

 8時40分、グリーンバンドからシールを付けて登り返す。2時間後、雪面は緩み程々の状態になっていた。シール登高で槍岳山荘まで登リ切る事ができた。
 
 槍沢滑降は、滑落停止出来た事は何よりだったが、時間的制限、技術不足、判断ミス、色々と考えさせられた。

 10時15分、槍岳山荘に戻り、30分休む。

 10時45分、飛騨沢に向け出発。シートラで下り、5分で飛騨乗越到着。
スキーを履いてスタート。最上部は帯状に岩やハイ松が出ているので、大喰岳よりにトラバースしてパスする。、雪質を確かめながらフォールラインに障害物が無い所まで移動する。飛騨沢は槍沢よりやはり硬い。現時刻、気温10℃、雪質は最適な状態だ。しかし、槍沢のように斜度が緩まず急斜面がずっと続いているので、こちらの方が恐怖感がある。シュプールが多数付けられ、いまいちで滑り難くそうだったので、右にトラバースしてノートラックに移動する。この位置からは、フォールラインは真っ白だ。

 11時10分、飛騨沢にドロップ、ロングターンで滑り下りる。いつまでも続く大斜面、最高以外言葉が無い。

 11時25分、大きく左にカーブする辺りで、登りの登山者1名と出会い挨拶を交わす。槍平が近付くと沢が割れ水流が見え始める。左岸をトラバースして行く。

 11時55分、槍平着。登りの時と同じで誰もいなくひっそりとしていた。小屋から夏道?登りに歩いたルートは少し上がるので板を背負い少し登る。樹林がうるさく滝谷の徒渉もあるので、面倒でそのまま歩いて下っていたところ、スキーの後続が追い付いて来た。やっぱり、滑った方がベストであった。滝谷は昨日とあまり水量は変わらず徒渉は少し勇気がいった。ここからも樹林がうるさく快適ではないがスキーを履いて機動力を生かして滑る。登りで歩いた夏道は滑れる状況ではなかったが、川岸を先行のトレースを追って滑って行く。誤れば水流に落ちてしまう際どい所も何度かあった。スキーを履いたまま川に落ちるとどうなるのだろう?考えてみれば恐ろしい事だ。どんどん下って岸が狭まり、つぼ足で白出沢を目指す。最初は踏み後を追って歩いていたが、何故か沢にまた戻っていっていた。とりあえず、河原に下りると先に堰堤が見えていた。ここからは自分で進まないといけないと、再び樹林に戻り夏道を目指す。堰堤にかなり近付いていたので夏道まではかなり遠く、ブッシュに阻まれ雪も腐りきって何度も落とし穴に嵌まり、もがき苦しむ。夏道に辿り着いた時には、ほっとした。

 14時30分、白出沢着。ここから林道となり、再びスキーを履いて石ころを避けながら滑って行く。雪もだんだんと減って山際の1メートル幅を苦労して滑る。穂高平近くで限界、板を背負い歩く。兼用靴は辛い、圧迫痛や靴連れで結構きている。気合で歩く。

 16時、新穂高温泉到着。
自販で飲み物を買い、しばらく休む。無料駐車場までもうひと頑張りする。やれやれ。日帰り温泉施設に車で移動して、二日間の疲れを洗い流す。平日なので客も居らず貸切状態であった。帰り際に支配人さんと30分位話し込んでしまった。飛騨高山から郡上八幡への抜け道(飛騨せせらぎ街道)を教えて貰った。その道を走り、岐阜〜京都へとずっと地道を走り、大阪茨木ICから高速に載って、29日早朝に倉敷に到着。

 反省点も色々有ったが、今年もGWは充実した山スキーを楽しむ事が出来た。

白出沢〜滝谷 難儀する

滝谷の徒渉

滝谷から見上げる北穂高の岩峰群

飛騨沢下部

飛騨沢中間部

飛騨沢上部(飛騨乗越を望む)

飛騨沢を振り返る 下りは笠ヶ岳を見ながらの滑降だ

飛騨乗越から槍沢を見下ろす

槍ヶ岳頂上にて

裏銀座の山々と薬師岳

黒部五郎岳 北ノ俣岳 双六岳 ・・

三俣蓮華岳 鷲羽岳 後方は薬師岳

槍岳山荘を見下ろす 手前 槍沢 向こう 飛騨沢

かなり粘ったが、奥穂だけはガスが晴れなかった
コースタイム
27日
 4:45 新穂高温泉
 6:00 穂高平小屋
 7:00 白出沢出合
 8:45 滝谷出合
 9:50 槍平小屋
13:50 飛騨乗越
14:10 槍岳山荘
      槍ヶ岳往復

28日
 7:30 槍岳山荘
 8:40 グリーンバンド出発
10:15 槍岳山荘
10:45
11:55 槍平小屋
14:30 白出沢出合
16:00 新穂高温泉

28日朝 これから槍沢に

槍を振り返る

グリーンバンドまで滑降 大曲リを見下ろす

槍沢カール

槍岳山荘へ登り返す 稜線への急登

飛騨沢 これからドロップ

飛騨沢のシュプール

槍平小屋が近付くと、亀裂が入り水流が見える


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